今昔とんでも物語【59】聖者と弟子


平安時代末期の説話集「今昔物語」の中から特に心に残る「とんでもない」話をご紹介していきます。今回は、僧の話としては最もセンセーショナルな話の1つです。
師匠の尊い教え、あるいはセクハラ
雑なストーリー①・昔、天竺にとても偉い、結構ご高齢な聖者がおりました。聖者の弟子の1人に、とても真面目で修行も頑張ってる者がおりました。聖者は折に触れその弟子に「お前は女に近づいたら大変な事になっちゃうから、絶対近づくなよ」と言っておりました。その言葉を、周りの弟子たちも、言われた本人も不思議に聞いておりました。だっていかにも女好き感丸出しの男ではなかったのですから。
雑なストーリー②・ある日、その弟子が用事で寺を出て川を渡っておりますと、若い女が同じように川を渡っているのが見えました。弟子は「うわー女だ。関わらないようにしなくちゃ!」と内心緊張しましたが、女は川を渡り切れず流されかけていました。「助けてー」と困っています。弟子は見過ごすことは出来ずに女に近寄り、手を取って岸に上がりました。
雑なストーリー③・しかしです、普段は見かけすらしない若い女の手の、柔らかさと温かさに魅了され、弟子はその手を離せずにいたのです。そして女に言いました。「前世の縁かわからないけど、君に僕のハートはビビビッと来ちゃったんだよね。僕の恋人になってよ」と。すると女は「貴方に助けてもらわなかったら死んでた命なんだからNoとはいえないわ」と答えます。弟子は女の手を引き、人気のない藪の中に入って行くのでした。そして横になり女の上に覆いかぶさります。
雑なストーリー④・弟子はふと我に返り「こんな所人に見られたら大変だ」と辺りを振り返り、誰もいなかったので安心してまた前を向くと、自分の体の下にいたのは若い女ではなく、師匠になっていたのです。そう、美女は師匠が化けた姿だったのです。弟子はショックの余り固まると師匠はにっこりと笑って言いました。「だから再三言ったじゃないか、お前は女で身を滅ぼすと!」
弟子はとにかく逃げたかったのですが、師匠の足は先程の名残のまま弟子の腰に絡みつき離れません。師匠が大声で色々言うので通行人が集まって来ました。師匠は「皆さん聞いてよ!この弟子は祖父くらい年の離れたわしと交わろうとしてこんな藪の中に引き込んだんですよー」と叫ぶので、みんなびっくりします。
雑なストーリー⑤・師匠は通行人にあらかた話し終わると、起き上がり弟子を連れて寺に帰ります。そして寺でも、人を集め先程の話をしたので皆はその弟子を、嘲笑したり蔑んだりしました。その弟子は命無くなるくらい恥ずかしく辛い思いをしましたが、それをバネに努力してあっちゅー間に高い位の僧になりました。
人々はこんな荒業で弟子を導いた聖者を「ほぼ仏じゃん…」と尊んだそうです。
野式部の雑な感想
聖者は弟子本人さえも気づかない、実物に会うと歯止めの効かない性欲を見抜き、導いたのですが「こ、こんな方法?」と正直驚きます。弟子は地獄のような辱めを受けますが、立ち直り精進する所までも見抜いていたのでしょう。このダイナミックな方法も「今昔物語」らしく感じます。
しかしですよ。へそ曲がり人間として言いたいのです。コンプライアンスが叫ばれる昨今、自業自得とはいえトラウマ必至の恐怖体験ですよ。見ようによっては、好みの弟子に日頃からちょっかい出して遂に関係を持つ的なハラスメントに見えなくもないような…そしてその事が嬉しくてみんなに吹聴してまわるのでした。それにしても聖者ともなると変身が出来た事に驚きます。

次回は「今昔とんでも物語【60】」を、お送りします。またもや手荒い指導を受ける僧が出てきます。
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