もしもシリーズ③「もしも道綱の母が出家したら」

「出家」とは仏門に入ることですが、平安時代では今より遥かに身近な事でした。悩み多き生涯を送った「道綱の母」も幾度も出家を考えました。今回は少し趣向を変えて「源氏物語」の中から出家した女性たちの、そのいきさつを見て行きたいと思います。

愛する男と息子のために出家‼藤壺の女御!

光源氏のパパ、桐壺帝が愛する女性を亡くししょんぼりしていると、「なんか亡くなった人に似てる人、いるってよ!」となり入内したのが「藤壺の女御」です。後宮の運命か、どうしたって夫より義理の息子の方が年が近い。光君の義母を慕う心はいつしか恋心にかわるのでした。そして十八番の夜這いで関係を持ち、皇子が産まれるのです。どれほどの女性を渡り歩いても光君の義母への想いは消えません。それがわかる女御は、夫が亡くなると突然出家します。2人の関係が噂にでもなったら、国を揺るがす大事件。皇子も源氏も行く末が大変な事になってしまいます。稀代の色好みの光君も大ショックを受けますが、出家した女性に対してはきっぱりと未練を断ち、藤壺の女御の良き友になりました。重大な、誰にも言えない秘密が2人の心を強く結びつけたのではないでしょうか。

高貴な姫君の初めての自己表示が出家!女三宮‼

光源氏が、異母兄である帝から「うちの娘、お願い!」と頼まれて結婚することになったのが「女三宮」。高貴な姫君が嫁いで来て、事実上の正妻の立場が揺らいだ「紫の上」は体調を崩してしまいます。そんな折、以前から女三宮を慕っていた貴公子「柏木」は女三宮の侍女を味方につけ突然、夜這いをかけます。挙句、女三宮は柏木の子を妊娠してしまうのです。元々ガードの緩い女三宮、秘密はすぐに夫、光源氏にバレちゃいます。何とか子供を産みましたが、夫は全然、自分の事好きじゃないくせに不義密通を知ったとたんネチネチ嫌味言ってくるし、子供の父親である柏木も光源氏に意地悪されて病気で寝込んでしまうし、何もかも嫌になった女三宮は、パパが遊びに来た時に「もーあたし何が何でも出家する、今すぐ!」とお願いします。娘の只ならぬ様子に何かを感じ取ったパパもOKを出し、娘を出家させるのでした。高貴さ故、ぼんやり育った女三宮、初めての強い決断が出家とは、悲しすぎます。

絶世の貴公子2人の間を、小舟のようにさまよい出家‼浮舟!

「浮舟」は、母親の再婚相手の実子でないとわかると、求婚者から「この話なかった事に」とされてしまうような、幸薄めな美女。しかし異母姉妹とか色々絡んでる内に気が付くと、光源氏の孫にあたる皇子と、光源氏の息子(ほんとはさっきの柏木の息子)とゆう、最高の貴公子2人から愛されていたのです。

1人は、恩のある真面目な貴族、もう1人は情熱的な皇子。困っちゃった浮舟は、入水自殺を図るのです。奇跡的に助かり、正気を取り戻した浮舟は、助けてくれたお坊さんに頼んで出家します。そして「もしかして浮舟、生きてるの?」と貴族の青年が寄こした使者を「人違いっす」と追い返すのでした。美青年にモテて、羨ましい設定に見えますが、「貴族の戯れ」に巻き込まれただけにも見えます。もしどちらかの男性を心底愛し信頼出来たのなら、そちらを選べばいいだけの話ですが「どっちもどっち」だったのではないのでしょうか。

特にハードな事例が並んだかもしれませんが、皆様共通してのっぴきならない状況にあって出家を選んだのでした。逆に言うと「夫が浮気であんまり来てくれない」だけの「藤原道綱の母」が出家しなかったのも当然かもしれません。人の苦しみというのは他人には計り知れないものではありますが。山寺に籠って「出家するから!」と頑張った事もある道綱の母ですが、親切な縁者が「ガンバよ!」と山籠もりグッズを届けてくれると有難くも内心ちょっとイラっとするのでした。あまりにも強い俗世への未練は出家の妨げになるでしょうが、それを乗り越えて出家した女性たちは、解放され、初めて心の平安を得たように見えるのでした。

時代劇、そこそこ好きな自分ですが、大河ドラマ「おんな城主直虎」の柴咲コウ様の凛々しい尼姿は今も瞼に焼き付いています。とゆう事で(どうゆう事?)次回は「もしもシリーズ」最終回「もしも道綱の母に娘がいたら?」を語りたいと思います。


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