今昔とんでも物語⑦
平安時代末期に編纂された説話集、「今昔物語」には、沢山のお話があります。かなり自由な、その中でも、特に心に残る「とんでもない」と思える話をご紹介していきたいと思います。今回は、かの芥川龍之介先生が小説になされた事で有名なお話です。
この悲劇、誰の罪?―六の宮の姫の夫の出家―
雑なストーリー①・昔、京に住む、ある貴族の夫婦に、美しい娘がいました。しかし両親は奥ゆかしさが過ぎて、積極的に娘の夫探しもせずに、相次いで亡くなってしまいました。世間知らずの深窓の令嬢は(深御簾?)たちまち生活に困ってしまうのでした。
雑なストーリー②・そんな薄幸の美女の噂を聞き付けた、割とイケてる貴族の青年が、何とか手を尽くし、姫の元に通い始めました。青年は妻になった姫をこよなく愛し、姫も望んだ結婚ではなかったものの、夫を頼りに暮らすようになります。
雑なストーリー③・しかし、青年の父親が地方の役人に任命されたので、息子としては一緒に任地へついて行かなくてはならないのでした。本当は姫を連れて行きたかったのですが、公にした結婚ではないし、通い婚のこの時代、後ろ盾のない妻など何の価値もないと親は思うものなので「必ず4年で帰ってくるから待っててね」と姫と約束して、泣く泣く京を離れます。
雑なストーリー④・父親の任期が終わる頃、青年は望まれてお金持ちの娘と結婚して、今度はその父親の任地で暮らす事になります。なんやかんやしているうちに、9年もの月日が流れてしまいます。
やっと京に帰れることになり、青年は急いで姫の屋敷を訪ねます。すると何と、もう建物はほぼ崩壊、敷地内の小さな半壊れの小屋に人の気配を感じますとそれは、昔この屋敷で働いていた者の縁者でした。
雑なストーリー⑤・その者に姫の消息を尋ねますが、青年が去ってから屋敷はいよいよ困窮し、屋敷は荒れ果てて塀さえも道行く者に盗られ、姫の行方もわからない、との事でした。
青年は姫を探しまわり、ふと立ち寄った、ある門の側で、みすぼらしいなりの女二人が座わっているのを見かけます。若い方の女が何となく品ありげなので近寄ってみると、何とそれは、変わり果てた姫の姿だったのです。痩せこけて、弱りきっていた姫は、その男が自分の夫だと気づいたショックで、亡くなってしまいます。青年は、その足で山の寺に出向き、出家したのでした。
野式部の雑な感想
まず思うのは姫様は「思いの外生きたな」とゆう事です。儚い花のような姫君の、夫が去ってからの9年間の、貧しく惨めで不安な生活を思うだけで、こちらも辛くなります。それほど親の後ろ盾をなくした娘の人生は、たちまち命の危機にさらされるのです。
今昔物語の中でも、妻を捨てた男の話はありますが、出家は稀な事です。この青年がずっと姫と暮らせたら、ただのハッピーエンドでしたが、色々事情がありました。しかし、この時代、姫にも新しい夫を持つ権利がありました。そうゆう話もあったはずです。それをしなかった理由が、単純に嫌だったのなら仕方ないのですが、もしどうしても最初の夫を待っていたかった、他の男と再婚したくなかったのだとしたら、この夫はやはり出家せざるを得ないほどの罪作りだったのではないか、と思います。ただ、この姫様、本当に心があったのかな、と疑うほど流されるタイプ。これほど困窮しても、覚醒して開き直り、強くなることも無いまま去っていきます。親譲りの奥ゆかしさでしょうか。後ろ盾のない身でも、子供と自分と家の者のために、逆ナンパまでして頑張った「源氏物語」の夕顔を、見習ってほしいと思ってしまいます。とはいえ、夕顔の末路も悲しいものでしたが。
恐怖のワンポイント・アドバイス
「今昔物語」の各話のラストに、語り手の一言があります。時には現代の価値観では許容出来ないような一言もあるのですが、今回は「この話は万葉集に書いてありました」との事でした。
次回は「今昔とんでも物語⑧」をお送りします。
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