今昔とんでも物語⑪「近衛舎人が神社で出会った美女」
平安時代に編成された「今昔物語」には、沢山の話があります。かなり自由な物語のその中でも、特に心に残る「とんでもない」と思える話をご紹介していきたいと思います。今回はユーモラスで、スカッとするような、強い女性のお話です。
最も身近な人間すらも欺ける、究極の変身術!
雑なストーリー①・その日、稲荷神社は参拝者で大変な賑わいでした。舎人とゆう役職の男達が連れ立って練り歩いていますと、人混みの中にイカす美女を発見します。「ピーピーお姉ちゃん!」なんて声を掛けたりちょっかいを出します。その仲間の中でも特に女好きの重方とゆう男が、妻帯者でありながら、大いに口説きます。「妻は居るけど、顔は猿みたいで性格も激ワルな女です。服が破けた時に繕わせるための理由で一緒にいるだけです。貴女みたいな素敵な人と出会えたからには、妻とはすぐにでも別れますから、私の恋人になって下さい!」としつこく言い寄ります。
雑なストーリー②・「そりゃ私も今は独り身だし、良い人に出会えたら結婚したいと思うけど、どうせ本気じゃないんでしょ?」と立ち去ろうとする美女を、重方は引き留め「行かないで!折角出会えたのに、このままさよならなんて寂しすぎるよ。俺と付き合ってよ♥お願いお願い!」と、拝み倒す始末。すると美女は、重方の烏帽子を掴み、その頬を思いっきりひっぱたきます。
驚いた重方が「なにすんだよー」と女の顔を見ると、なんと笠の下には、変装した自分の妻の顔があったのです。
雑なストーリー③・「あんたの友達から、あんたは浮気な男だって話を聞いてたけど信じなかった。でも今日はそれがすべて本当だってわかったわよ!」妻の怒りは凄まじく、重方も応戦して揉めておりますと、先に行ってた重方の仲間も騒ぎに気付いて戻ってきます。「あの派手な美人は奥さんだったのかい、アンタよくやった!私たちの言ってた事、本当だったでしょ!」と、はやし立てます。妻は「あんたは好きな女と暮らせばいい。私の所には二度と帰ってくるんじゃないよ!」と吐き捨てて去って行きます。結局、重方は妻に平謝りをして何とか元のさやに納まりますが、大恥をかいた上に噂が広がったものですから、その事件を知っていそうな人を見かけると、コソコソ逃げるようになったとゆう事です。
野式部の雑な感想
人間が、ない物ねだりな気持ちで浮気するとしたら、今の相手とは全然違うタイプを選ぶと思うので、この話の妻の変身ぶりは凄いです。夫とそこそこ話しても全然気づかれないんですから。雰囲気が違うのだから、メイク、服装、声色までも変えられたんです。結局、浮気の現行犯逮捕するためには、自分が口説かれるのが一番正確です。まっ、遠慮のない自分の悪口を目の前で散々聞かされるのですから、メンタル辛いけど、相手に見切りをつけるには最適かもです。「今昔物語」の魅力の1つに「女性の元気さ」があると思うのですが、この妻、とびきりの元気です。
恐怖のワンポイント・アドバイス
「今昔物語」の各話のラストに、語り手の一言があります。時には現代の価値観では許容出来ないような一言もあるのですが、今回は「この妻は、重方が亡くなった後、再婚しました」とあります。浮気な夫の後にきっと、誠実な人と再婚出来たんだろう、これだけ頭が良く色々なスキルがある上、強い女性なんだから、と思えます。しかしその一方で夫の重方も、神社での一件がなければもっと長生きしたのではないかとか、この妻の何らかの策略で早死にさせられたのではないか、とかちょっと勘ぐってしまう自分がいます。
次回は「今昔とんでも物語」⑫を、お送りします。次回も、男の浮気心が事件を起こすお話です。
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