今昔とんでも物語㉓「さらわれた姫君」

もう1人の姫君

平安時代末期に編纂された説話集、「今昔物語」には、沢山のお話があります。かなり自由な、その中でも、特に心に残る「とんでもない」と思える話をご紹介していきたいと思います。今回は、不運な姫君のお話です。

突然の誘拐、監禁。姫君が水の中に見たものは?

雑なストーリー①・京に住む大納言(昔の身分。かなり高い。美味しいあんこではない)には娘が数人おりました。その中でも、特別に美しく、親に愛され将来を期待された姫君がおりました。ある日、その屋敷で働く男が偶然、その姫の姿を見てしまい、恋の虜になります。身分違いも甚だしい2人。男は思い悩み病になるほどです。「このままじゃ死んじゃうから、どうせだったらやるだけやろう!」と、犯罪者的発想の飛躍から、姫に近づく計画を立てます。
雑なストーリー②・男は姫の侍女を介して、「どうしても直接、ご本人にお伝えしたい事があるんだ!」と言います。それを聞いた姫も「長く務めてる者だし、じゃあ聞きましょうか」と男の指示通り夜に、部屋の端近の御簾の前に立ちます。すると男はいきなり姫を掴んで担ぎ、馬に乗せて走ります。
雑なストーリー③・大事な姫が居なくなって屋敷は大騒ぎになりますが、仲介をした侍女は「自分が咎められちゃう…」とビビり、真相を誰にも伝えませんでした。男は「京に居たら見つかる!」と、馬を走らせ結局、安積山とゆう遠い山奥の庵で姫と暮らし始めます。
雑なストーリー④・姫は男と夫婦となり妊娠しますが、男は食べ物を得るため出掛けます。男が何日も帰らず、1人待っている時に心細くなり、庵を出て周りを見て歩きます。すると古い井戸があります。覗き込むと、なんともみすぼらしい女が映ります。さらわれてから鏡を見る事もなかった姫は、変わり果てた自分の姿へのショックを受けます。自分が京の屋敷で親の庇護のもと何不自由なく暮らしていた日々を思い出し、悲しくなります。そんなこんなで姫は庵に戻ると絶望して、息絶えてしまうのでした。帰ってきた男も姫の遺体を見つけ、後を追うように隣に並んで死ぬのでした。

野式部の雑な感想

「どうゆうタイミング?」と思います。不可抗力で誘拐され、劣悪な環境に置かれ、関係を持たされ、妊娠して。特別に前もってこの男に恋でもしていない限り、耐えがたい事の連続です。どこまでも無力ではあれど、それでも生き抜いた「サバイバー姫」が、なぜ突然死んでしまうのか。曖昧にしていた現実を目の当たりにして苦しんだのか、誘拐犯を頼りにしなければ生きられない自分に絶望したのか、あるいは、誘拐犯を愛するようになり、捨てられる恐怖を感じたのでしょうか。

感情が表に出ないのが、令嬢の美徳とされていた平安時代。姫君の心の中ほど不可解なものはないのです。

次回は「今昔とんでも物語㉔」をお送りします。次回も、タイミングが不思議な姫君のお話です。


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