今昔とんでも物語㉔「侍女になった姫君」

つらい再会

 平安時代末期に編纂された説話集、「今昔物語」には、沢山のお話があります。かなり自由な、その中でも、特に心に残る「とんでもない」と思える話をご紹介していきたいと思います。今回も、タイミングが不思議な姫君のお話です。

悲しくも、複雑怪奇な姫君の胸の内

雑なストーリー①・京に、あまり裕福ではない、美しい姫君がいました。両親が相次いで亡くなってしまい、姫には夫がありましたが、妻の実家が夫の経済的支援をする当時の習わしを、徐々に果たせなくなってきました。姫は夫に「別れてください」と言いました。初めは、「そんなことはできない」と拒んでいた夫も、次第に離れて行き、他の女性と結婚してからは、訪ねてくることも無くなりました。
 いよいよ心細い暮らしを送る姫君でしたが、手入れが出来ないままで壊れた屋敷の片隅に、尼が住み着き、食べ物を分けてくれたりして数年を過ごしました。

雑なストーリー②・そんなある日、尼の顔見知りの、地方の役人の息子がやってきて「なんかどっかに、可愛い女の子いないかな?」と言います。尼は「この屋敷に超美人の姫さんいますよ!」と答えると、役人の息子はすっかりその気になり、尼に取り次ぐように矢の催促。「軽い気持ちじゃないよ!妻として地方に連れ帰るから」と尼を通して伝えます。姫は「そんなことはできません」と断り続けますが、見かねた尼はついに、役人の息子を引き入れてしまいます。2人は夫婦となり、男は姫を自分の住む地方に、連れて帰りました。

雑なストーリー④・しかし帰った屋敷は、男の正妻の実家。たちまち姫の存在が、正妻の知る所になり「ちょっと!この女なに?」と夫に詰め寄ります。夫も庇いきれずに、姫は正妻の親に侍女として仕えることになります。京育ちの姫は「京の」と呼ばれます。

数年後、その屋敷の役人の上司に当たる役人が新しく赴任して来ることになり、屋敷は接待の準備で大騒ぎです。「京の」は美人だし世話役にしよう、となり姫は美しい衣装を着させられ、その上司に仕えます。

雑なストーリー⑤・上司と姫は、なんかお互い「どこかで会ったかな?」なんて思いながらも何夜も過ごしますが、ある夜、上司が姫の素性を強く聞きますと、なんと上司は姫の昔の別れた夫だったのです。姫は驚愕の事実を知った瞬間、ショックで息絶えてしまうのでした。

野式部の雑な感想

男に見捨てられ、騙されて、不幸のフルコース。何もできないのがステイタスの姫君が、生きるために侍女として一生懸命働くのです。夜の接待役までさせられても、難なくこなすのに、その相手が昔の夫だったら、ショックで息絶えるとは。逆境にも前向きで強いはずの女性のあっけない最後に茫然とします。

 現代より浮き沈みが激しいこの時代。姫の頭の中では、昔は昔、今は今であるべきで、それが交わることが耐えがたい苦痛だったのでしょうか。あと、昔の夫婦、お互いにそんなに分かりませんかね。全身整形とか、故意に大変身とかしてたならともかく。

恐怖のワンポイント・アドバイス

「今昔物語」の各話のラストに、語り手の一言があります。時には現代の価値観では許容出来ないような一言もあるのですが、今回は「黙って養えば良いものを、昔の夫だとはっきりさせるなんて、この男は心が無いね!」との事でした。「感動の再会!」みたいな、色々あったけど幸せに暮らしました、とはなりません。確かに黙っていれば、姫は生き続けていたのかも知れません。

次回は「今昔とんでも物語㉕」を、お送りします。引き続き、タイミングが不思議なお話です。


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