今昔とんでも物語㉖「溶け消えた国司」
平安時代末期に編纂された説話集、「今昔物語」には、沢山のお話があります。かなり自由な、その中でも、特に心に残る「とんでもない」と思える話をご紹介していきたいと思います。今回は、なんとも不思議なお話です。
虐待?それとも知恵者?上司を消した!
雑なストーリー①・昔ある所に、お腹にサナダ虫がいる女性がいて、結婚して子供を産みました。生まれた男の子は、すくすく成長して、なんと国司(地方長官)になるほど出世しました。
雑なストーリー②・新しい国司の赴任とあり、盛大な歓迎の宴が開かれました。しかし、国司が見渡すと、テーブルの上には、かに道楽の胡桃バージョンみたいな、胡桃尽くしの料理。国司は青ざめ苦しそうに「なんでこんな胡桃な訳?」と聞くと、主催側は「この土地には胡桃が沢山あるから、名物みたいな感じっス」と答えます。
雑なストーリー③・「あっそ…」と気もそぞろに、ますます苦し気に、料理にも手を付けようとしない国司。そんな姿を見た、年かさ訳知りの次官のような役職の男の胸に、ある疑惑が浮かぶのです。
雑なストーリー④・次官は、国司の所に今度は酒を持って行きます。「何かこの酒、白く濁っているんだけどなんなの?」と訝し気に国司が訪ねますと、次官は「これは地域特製の胡桃酒です。新しく赴任する人は必ず飲む決まりだから、飲んでください!」とほぼ無理やり飲ませようとする雰囲気に、国司は震えながら言います。「自分、サナダ虫の生まれ変わりだから、胡桃はノーサンキュー!」同時に国司は、水のように流れ消えてしまいました。
雑なストーリー⑤・目の前で起きたとはいえ、信じられない光景に、出席者は大騒ぎ。ここで次官がいいます。「国司が胡桃を前にあんまり辛そうなので、もしや…と思い胡桃酒を持ってきました。案の定、思った通りでした」
主が消えた供の者達も、仕方なく京に戻りました。国司の妻子、親戚も知らない事だったので、驚きました。サナダ虫が人間に生まれ変わるとは、珍しい事もあるものだと、聞いたものは皆笑いました。
野式部の雑な感想
ちょっと複雑に気持ちになるお話です。男の立場からすると、一生懸命勉強、努力して国司にまで出世したのに、その歓迎会で大嫌いな食物を大量に出されて、大嫌いな物のお酒を飲まされそうになって、溶けて死んでしまうという。自分で「サナダ虫の生まれ変わり」と言うからには自覚はあったのですが、どうゆうタイミングで自分が人間ではないと知ったのか。胡桃が嫌いすぎて探って行ったら真実にたどり着いたのか。可能性としては、母親から「実はアンタは…」って言われたのか。でもお腹に寄生虫がいたとして、結婚して出産したら「この子サナダ虫じゃん!」って分かるものでしょうか?
何も悪い事もしていないのに、むしろ優秀な人なのに、鬼退治みたいに退治されて不憫ですが、サナダ虫って何か長いし、人に害を与えるので嫌われているのです。サナダ虫が胡桃に弱いってこの話で知りました。
次回は「今昔とんでも物語」㉗を、お送りします。
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