野式部の私の好きな古典BEST10⑦
第5位 今昔物語 後編
個人的に好きな、心に残った古典作品をベストテン形式で発表していこうとゆう呑気なシリーズです。お気軽に読んで頂ければ幸いです。なお、「古典」の解釈も呑気となっております。
今は昔…物申す語り部の世界
前回は、今昔物語の、愛の世界についてでしたが、今回は「語り部」について書きたいと思います。
現代の物語においても、語り部は、第三者的立場から内容を伝える者であり、極端な価値観の人物や出来事が起きる話の中でも、正気を保つ立場です。しかし、千年の時を経れば、あらゆる価値観は変化します。当時は、常識的、良識であったであろう事も、耳を疑うような価値観になる事もあります。そのごく一部をご紹介したいと思います。
強盗に出会った、母子に降りかかった悲劇
乳児を抱いて移動中の母親が、二人組の強盗に出会います。強盗たちが、自分たちの性の相手をするように強要すると、母親は、「戻ってくるからちょっと待ってて、戻る証拠に可愛いわが子を置いていきます」と言ってその場を離れます。味方を連れて戻りますと、騙されたと気づいた強盗は腹いせに子供を殺して逃げ去った後だったのです。
とても悲惨で許されない犯罪ですが、語り部は物語をこう結びます。「いやしい身分の女でも、貞操を守ったのは立派だった」。読んでひっくり返りました。当時の価値観が伺えます。とはいえ何が正解だったのか。子供を守るために強盗に身を任せるべきだなんてはずはありません。大体、そうしたって口封じに母も子も殺されたかもしれない。100%悪いのは強盗であり母子は被害者です。しかし残念なことに当時よくあったであろう、強盗の起こした事件を、この語り口で書き残した理由は「身分の低い、頭の悪い女の中にも、こんな機転の利く者もいました、こうまでして操を守りました、偉いですね」とゆう事なのでしょう。とんでもないですよ。
いきなり!神々しい菩薩を射抜く猟師、和尚さんも驚愕!
とにかく膨大な数を誇る「今昔物語」。神仏や僧にまつわる話も多数あります。その中で特に、もろもろ気にかかる話をご紹介します。
とある寺の和尚さんと懇意にしている猟師が、寺を訪ねますと、何か様子が変。聞けば「夜になると、菩薩が現れるんだ」との事。お寺の小僧さんも見たと証言。んじゃあ、俺も見てくわ~と一緒に夜を待ちますと、神々しく美しい菩薩が、白い象に乗り姿を現します。すると猟師は、すかさず矢を放ち、菩薩を射抜いて言ったのです。「ありがたい神仏の姿が和尚はともかく、子供や自分に見えるわけないっしょ。こりゃフェイクでしょ」。案の定、矢に射抜かれていたのは、大きな野猪の死体でした。
これ、どうなんでしょか。色々考えてしまいます。猟師は良い事したんでしょうか。和尚さんは凄く喜んでたんですよ。そもそも騙した猪もね、騙して遊んでたんでしょうか。もしかして和尚さんに恩があって、善意で化けてたんじゃ…とか想像してしまいます。例えば、ある骨董品を価値があると信じ、大切にしている人に対して、他人が勝手に鑑定してもらって「こんなの580円だって」と教えるような感じ? この猟師の放った矢は、色々なもの打ち砕いた、現実なんですね 。
そして語り部は結びます。 「僧は熱心に信心してるだけじゃ駄目、ちゃんと仏門の勉強もしなくちゃ、こんな風に騙されちゃうよ。それに(殺生をするからと当時はよくない仕事とされていた)猟師の中にも、賢いのもいるんだね。獣も、人を騙すと無駄に死ぬことになるからね」。多方面にケチつけました。
おおらかで、膨大な、「今昔物語」の世界、2回で語ろうというのが無理でした。またの機会に他の話もと思います。
次回は、野式部の私の好きな古典、第4位を発表します。
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