今昔とんでも物語㊿「霊に会って死んだ男」
平安時代末期の説話集「今昔物語」の中から特に心に残る「とんでもない」話をご紹介していきます。今回は、何とも残念なお話です。(27巻21話)
うっかり夫と嫉妬妻…
雑なストーリー①・昔、ある地方都市に荘園があり、そこで泊まり込みの仕事をしていた男が、主から休暇をもらい、自分の家に帰ろうとしていました。
その帰路の途中にある橋に、女が1人立っていました。怪しいので関わり合いになりたくないなと思っていたのに、声を掛けられてしまいます。女がどこに行くのかと聞くので、男が場所を答えると「そこ行くんなら通り道の橋にいる人に、この箱渡してくんない?」と頼んできたのです。
雑なストーリー②・電話もない時代、運よくその人が橋に居合わせるか、あんたは誰で、渡す相手は誰なのよ?と、男も不気味に思い疑問をぶつけますが、女は「絶対いるのは間違いないから。ただ、この箱の中身は絶対見ないでね!」と乱暴な事を言います。男は「なんか変な事頼まれてやだなー」と内心後悔しましたが、箱を受け取ると女は安心したのか、去って行きました。しかし、男のお供の者達からすると女の姿は見えず、男が1人で立ち止まって独り言を言ってるように見えていたそうなのです。もう怖いですが。
雑なストーリー③・これほどインパクトの強い話であるにも関わらず、男は指定された橋を通り過ぎて帰宅してしまったのでした。家に戻ってから思い出し「一応約束して預かったのに悪かったな。今度その橋を通る時は必ず渡そう」と思い、箱を高い所において隠しました。
雑なストーリー④・しかし、夫が箱を隠したのを、さりげなくしっかり見ていた男の妻は、夫が出掛けた隙に隠した物を取り出しました。「夫ったら他の女へのプレゼントを隠したに違いない!」と嫉妬の炎を燃やし、箱の蓋を開け中身を見てしまいます。
すると、何と中には、くり抜いた人間の目玉と、切り取られた男性器が複数入っていたのです。あまりの不気味さに驚いた妻は、帰ってきた夫に、隠してあった箱を見てしまった事と、その中身を伝えます。男は「うわー中見るなって言われたのに何してんだよー」と焦りながらも、箱の蓋を元通りに閉めて、慌てて指定された橋に向かいます。
雑なストーリー⑤・橋の上に行くと、女が言った通り、女が現れました。他の橋で頼まれたことを伝え、箱を渡すと、女は「あんた、中身見たね?」と聞いてきます。男は「見るなと言われたから見てないよ」ととぼけますが、女は「何やってんのよー」と明らかに気を悪くした様子でした。それでも箱を受け取ったので、男は家に帰りました。
雑なストーリー⑥・男は気分が悪くなり、家で寝込みました。男は妻に「だから箱を開けるなって言ったのに…」と言い残して死んでしまいました。
妻のよくわからない嫉妬が原因で、夫は無駄に死んでしまった、と女の嫉妬深さを恨む者もあったそうです。
野式部の雑な感想
よくよく考えると、夫も随分うっかり者ですよね。帰り道に箱を渡せば良かっただけの話です。家に持ち帰り、理由も言わずに「これ中身見るなよ」って余計気になります。もちろん死ななければならないような悪い事をした訳ではありませんが、所々うかつかなと思います。でも、妻から見るとこの夫は、やみくもに嫉妬しちゃうくらい魅力的だったのかもです。
それにしても、中身の恐ろしい事、ホラーです。スプラッタです。どうしたら橋から橋の女にこんな中身の入った箱を渡さなきゃいけなくなるのか謎は深まります。この群を抜いた気味悪さも今昔物語の魅力のひとつかと思います。
今昔物語、鬼シリーズとしてやってまいりましたが、鬼の概念もあいまいになってきたところで一度、区切りをつけようと思います。次回は「鬼の総決算」として鬼の概念を見つめたいと思います。
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