今昔とんでも物語【62】前世とお経・前編


平安時代末期の説話集「今昔物語」の中から特に心に残る「とんでもない」話をご紹介していきます。今回は、お経にまつわるお話です。
憶えられない事に理由が欲しい心(14巻12話)
雑なストーリー①・昔、あるお寺に若い僧がいました。仏門に入った日から大変熱心に仏教の勉強を続けて、お経も暗唱できるようになりました。しかし、何度おさらいしてもどうしても覚えられない文字が二文字だけありました。
「おかしいなぁ。記憶力が悪いなら最初から全然覚えられないはずなのに…」と悩みました。
雑なストーリー②・僧は霊験あらたかなお寺に参詣し観音様に一心に祈りました。すると籠り始めて7日目の明け方、僧の夢に知らない老僧が現れ言いました。「お前が覚えられない二文字を覚えられるようにしてあげる。どうして覚えられないかも教えてあげる」
「お前の前世は○○村の生まれで、やっぱり僧だった。ある時火の灯りの側で写経してたら火が紙に移ってその二文字を書き写す事ができないまま死んでしまったからどうしても覚えられなかったんだよ」
雑なストーリー③・僧は夢から目覚めて、己の前世を知り愕然としました。しかし、お経を唱えてみると例の二文字を忘れずに覚えることが出来ていたので、僧は観音様に感謝して、自分の寺に戻りました。
雑なストーリー④・そのうち僧は、観音様の化身が言っていたことが気になって来ました。自分の前世で生まれた家に行ってみたくなったのです。
その家に行ってみると両親は健在で、昔亡くした息子そっくりの僧が訪ねて来たので驚きました。僧は正直に観音様の化身に言われた事を話し、亡くなった息子が焼いてしまった書を見せてもらうと、まさにずっと覚えられなかった二文字だけが焼け焦げていたのでした。
雑なストーリー⑤・その僧は、今世の両親、前世の両親、四人に大切にされ、またよく孝行したという事です。
野式部の雑な感想
何かを覚えるときに、すぐ覚えられる事と何度試し見ても覚えられない事が、誰にでもあるのではないでしょうか。理由のないその不思議にぴったりと寄り添ってくれるのが前世なのかも知れません。
しかし、前世のせいと諦めるのではなく、むしろ理由を知り反省し精進する姿には感動します。
ひとつだけ気になるのは、僧の前世は何歳で亡くなり、今世は何歳だったのか。人生五十年時代、よくご両親も健在だったなと。そしてよく飽きもせず前世と瓜二つに生まれ変わって来たなぁと思います。

次回は「今昔とんでも物語【63】」を、お送りします。「前世と僧」中編として、お経と僧と前世とを巡る話をいくつかご紹介いたします。
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