今昔とんでも物語【51】鬼総決算
平安時代末期の説話集「今昔物語」の中から特に心に残る「とんでもない」話をご紹介してきました。今回は、鬼にまつわる話のシリーズを続けるうち「そもそも鬼って何?」と思い始め、色々考えた事をお伝えする回にしたいと思います。色々な鬼が居るのです。
その①はっきりと鬼
「今昔物語」の中で、誰もが思い描く鬼の姿で登場するのが、20巻7話の「染殿の妃」の鬼だと思います。とある聖人が、除霊を依頼された人妻に愛欲の炎を燃やし、襲いかかり捕まりますが「俺は鬼に生まれ変わって彼女に会いに来る」と言い残し有言実行します。これほど経緯のはっきりした、人目に触れた鬼は珍しいです。
27巻13話の「安義橋」に出た鬼もその姿をバッチリ晒しました。肝試し的気分で来た男を、最初は女に化け、すぐに鬼の姿で追ってきて「会いに行くぞ!」と怒鳴り有言実行、今度は男の弟に化けてまで家に入り込むという念入りようでした。
5巻1話の「羅刹女」も最初は美しい女の姿で男達を誘惑し、色々気づいちゃった男達が逃げようとすると、恐ろしい姿で追いかけて来るのです。これもまた数年後に逃げた男の1人に会いに来るという、律儀な部類の鬼になるでしょう。
27巻22話の猟師の息子を食べようと画策する母親の話も、暗闇で襲われ、はっきりと見えないものの、射落とした腕は鬼の手だったので、はっきり鬼と言えるでしょう。
その②匂わせ鬼
はっきりとはしないけど、多分な鬼もいます。27巻15話の、1人でお産を済まそうと山奥に入って行った女は、ボロ家に一人で暮らす高齢女性に出会いお産を助けてもらいます。しかしこの高齢女性は、お産を無事済ませた女が寝てると思って、赤ちゃんを抱きながら「なんてうまそうな子。一口でいけちゃう♪」と呟きます。驚いた女は相手の目を盗み、子供を抱いて走って逃げます。山奥で不審ではありますが、言葉以外に鬼の要素は無いように思います。恩人の要素もあるのにさよならも言わずに消えた、無作法な女と思われても仕方ないけど、人肉食べたいと呟いた、匂わせ鬼ではあるでしょう。
27巻16話の、久しぶりに逢った男女がホテルに困り、勝手に泊まったお堂に怖い女が出てきて怒る話も、男女が毒気に当てられ、女の方は死んでしまうのですから、「あそこは鬼の住処だったのかも」と思われても仕方ないのかもですが、あくまでも予想です。
その③どさくさ鬼
鬼が板になったり(27巻18話)油瓶になったり(27巻19話)正直「本当に鬼ですか?」と疑いたくなる話もあります。あとは人が消え去ったり殺人事件が起きた時に「たぶん鬼だろ」となる話もあります。女官が消えたり(27巻8話)役人が消えたり(27巻9話)妻が消えたり(27巻17話)鬼の仕業と思えば諦めざるを得ないところあるのでしょうか。また、「常ならぬ者」が登場する中には「これは生霊か死霊、あるいは狐か狸が化けた姿ではないか?」と思える時もあります。結論としては、鬼の存在自体が曖昧で、それが魅力でもあるのかと思います。
次回は、謎の男が謎の話をして、消えるお話をお伝えしたいと思います。
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