今昔とんでも物語③

飛んでる女

平安時代末期に編纂されたらしい説話集、「今昔物語」には、沢山のお話があります。かなり自由な、その中でも、特に心に残る「とんでもない」と思える話をご紹介していきたいと思います。今回は、怨霊大活躍の平安時代でも、当人が認めたとゆう、稀なお話です。

恨み晴らすために飛びます!-近江の生霊、京で犯行-

ストーリー①・京から東に向かう旅の男が、夜中に歩いておりますと、そこそこ身なりのいい女が一人で立ってました。「なんだろ」と思いながらも通り過ぎようとしますと、「急いでるんだろうけど、お願い!行きたい家があんのよ、連れてって!」と懇願されます。あまりにしつこいし、知り合いがいて場所を知ってる家だったので、仕方なく案内します。すると女は、お礼と自分の素性を言うと、閉まったままの門の中に消えて行ったのです。

ストーリー②・女が消えた途端、屋敷に異変の雰囲気。気になってるうちに夜も明けたので、屋敷の知り合いを呼んでもらい聞いてみますと「ここの主人の正妻の生霊が飛んできて、主人をとり殺してしまったんだよ、そんなのはじめて見たよ!」とショックを隠し切れない様子。旅の男も「ひぇっ、俺が生霊、案内してしまったんかい!」と衝撃と恐怖を感じ、旅を一旦取りやめ、京の家に帰りました。

ストーリー③・恐怖体験の毒気に当てられ寝込んだ男でしたが回復したので、東国に向かい旅立ちます。そして、女が消え際にはっきり伝えてきた家の近くを通ったので、訪ねてみます。すると女は「あーあの時の。ホントにありがとね!」と男を歓待。御簾越しですが、お礼を言い、お土産まで持たせるのでした。

野式部の、雑な感想・方向音痴の霊?

平安時代に、霊の類が信じられていたことは、陰陽師の活躍などでも、皆様、知るところかと思います。かの源氏物語でも、霊の活躍ときたら、源氏を凌ぐ勢いでした。しかし、その物語の中で生霊、死霊として活躍した女性、六条の御息所ですら、生霊になってた時は「何かやな夢見たなー。しかも知らないお香が髪に染みついてんだけど」と不審に感じ、自覚がないままだったのです。

その点、このお話の女性は凄い。浮気とかして自分を苦しめた夫を、生霊になって殺した上に、場所を教えてくれた男に自分の素性を明かし、訪ねてきたら否定もせずにお礼をするとゆう。生霊の証拠なんてないし、変なこと言う男が訪ねて来たと門前払いも出来たと思うんですが、潔いですね。自分を正当化していたんですね。

ただひとつ「霊も迷子になるわけ?」と気になります。特別の能力で生霊になる訳ですから、相手めがけて瞬時に飛べそうなものですが。もしかしたら、旅の男は知らないところで案内以上の役割を果たしていたのでしょうか。あるいは、この出来事を世に知らしめる、後世に残すために、わざと知ってる道を聞いたのでは、なんて思ってしまいます。

恐怖のワンポイント・アドバイス

「今昔物語」の各話のラストに、語り手の一言があります。時には現代の価値観では許容出来ないような一言もあるのですが、今回は「ホントに女の恨みは恐ろしいね」みたいな締めのお言葉。そりゃそうだ。そういえば、男の生霊ってあまり聞かないですね。

次回は「今昔とんでも物語④」をお送り致します。


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