今昔とんでも物語⑰「死んだ夫に会った妻」
平安時代末期に編纂された説話集、「今昔物語」には、沢山のお話があります。かなり自由な、その中でも、特に心に残る「とんでもない」と思える話をご紹介していきたいと思います。今回は、愛し合いながらも、死に引き裂かれた夫婦の物語です。
ゴースト、ちょっとだけ有難迷惑な訪問者
雑なストーリー①・ある所に縁あって深く結ばれた、美男美女の貴族の夫婦がいました。幸せに3年ほど暮らしましたが、夫はある時、病になり、あっけなく亡くなってしまいます。
残された妻は、身も世もない程に嘆き悲しみ「夫にもう一度会いたい、それが無理なら私が死んでしまいたい」とまで思うのでした。有名な美人ですので、求婚の文を沢山、その辺の殿方から貰いますが、ガン無視して悲しみ続けます。
雑なストーリー②・そんな悲しむだけの日々が3年ほど続きましたが、ある夜、妻の耳に笛の音色が聴こえてきます。それは亡き夫の吹いていた笛の音と同じでした。すると笛の音が近づいてきて、戸の向こうから夫の声がします。妻は驚きながらも、隙間から外の様子を伺います。
雑なストーリー③・戸の向こうにいたのは確かに亡くなったはずの夫。夫は生前と変っていないように見えて、少し様子が違ってました。袴の下紐がほどけていて、背中の方から煙が出ていたのでした。夫が「死んじゃって何が悲しいって愛する人に会えないことだよねー」と歌を詠みますが、妻は怖ろしくて返事も出来ません。
雑なストーリー④・妻が自分を怖がっているのを感じ取った夫は「君が悲しがってるので来てみたけど、怖がられてるから帰るね。私は地獄の苦を受け、日に3回業火に焼かれているのだよ」と言って去って行きました。
野式部の雑な感想
あの世とこの世に別れた恋人たちの、再会の物語はいくつもあります。死者が通ってくると、生者は生気を吸い取られ、やがて命を落とします。しかしこの話の女性は、会いに来てくれた夫に不気味な恐怖を感じます。その恐怖は「死」に対する恐怖なのではないでしょうか。お互いがお互いへの未練を断つために、この再会は必要だったのでしょう。とはいえ妻への未練と心配で、わざわざ訪ねて来た夫を「なんか気持ち悪いなー」と思う妻、割とドライだね。あと、夫の下紐が解けていたのが、結んでから来い、と思いますが、両想いを意味する状態だそうです。
夫の背中から煙が出ていたのも、おっかない要因の1つかと思うのですが、人間は普通に生きるだけで何らかの罪を犯す、とゆう地獄観で、この夫も特別ワルではないのです。それでも3年も地獄の責め苦を受けなくてはならないとは、気が重くなる話です。3年で終わるかもわかりませんし。
次回は「今昔とんでも物語⑱」をお送りします。旅の途中でひどい目にあう夫婦のお話です。
この記事が少しでも面白い!と思っていただけたら、
応援のクリックをいただけたら嬉しいです!