今昔とんでも物語【72】トイレから旅


今回は突然の失踪事件のお話です。平安時代末期の説話集「今昔物語」の中から特に心に残る「とんでもない」話をご紹介していきます。
比叡山の高僧・長増さん(15巻15話より)
雑なストーリー①・昔ある寺での事です。厠に行った高い位の立派な僧がいつまで経っても戻って来ません。「いつになく長いなぁ。大変なのかしら?それとも『ハンターハンター』全巻読破してるのかしら?」なんて弟子たちが吞気に構えていたのも束の間、厠にも寺のどこを探しても僧の姿はなく寺は大騒ぎになりました。
雑なストーリー②・そのまま長い時が流れ、その時驚いた弟子の1人である僧が土地の国司に大変良くしてもらっていました。その国司の転勤先にも一緒について行くことになりました。その土地に国司は立派な僧房を用意してくれました。
雑なストーリー③・その僧房の門に「門付け乞食」と呼ばれている僧が立ちました。「乞食行」と言う、人々からお布施を頂きながらひたすら修行する僧です。あまりにも身なりがみすぼらしいので、家の者が大声で追い払おうとしました。その声に驚いた弟子だった僧が「何事?」と、門付け乞食の僧の顔を見ますと、それは何と、何十年も前に厠から消えた自分の師匠の顔だったのです。土地の者達は、みすぼらしい僧が、国司と一緒に来た偉い僧の師匠と知り驚きました。
雑なストーリー④・弟子だった僧が師匠に経緯を尋ねると師匠は「あの日ふと厠で、こんな生ぬるい日々を送っていては後世の往生の妨げになる!と思い立ち、そのまま何一つ持たずに寺を出て、船に乗り知らない土地で乞食行を続けてきた」と答えました。
弟子は長年の謎が解けて安堵したと同時に、敢えて厳しい環境に自分を置き精進している師匠の姿に感動するのでした。
雑なストーリー⑤・やっと会えたと思いましたが師匠はまた、ふらりと船に旅に出てしまいました。素性を知られていない土地でこその乞食行なのです。それから数年後、また同じ僧が門の前に立ちましたので今度は皆で大事にしました。しかし僧はすぐにひっそりと西を向いて合掌した姿で亡くなっていました。
土地の者は感激して何年も供養しました。門付け乞食の僧は、仏教がいまいち伝わってない地域のためにやって来た仏の化身だったかもね、と人々は思いました。
野式部の雑な感想
大変立派なお心がけとは思うのですが、誰かに前もって話せば反対されるとかあるのでしょうが、残された方は本当に驚きますね。昔のお昼のドラマで、ある日突然夫が失踪しまして。最終的には訳あり女性を助けるためだったと判明するのですが再会した妻が「どうして突然消えてしまったの?」と聞くと夫は「君に心配をかけたくなかった」と答えるんです。突然消える以上に心配かける事あるのかな?とあんぐりしたのを覚えています。これはただの苦しい言い訳ですが。
しかし僧ともなればどんな事にも平常心を保たなければならないのでしょう。

次回は「今昔とんでも物語【73】」を、お送りします。人相見が必死に頑張るお話です。
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