今昔とんでも物語⑥
平安時代末期に編纂された説話集、「今昔物語」には、沢山のお話があります。かなり自由な、その中でも、特に心に残る「とんでもない」と思える話をご紹介していきたいと思います。今回は映画にもなった、夫婦の物語です。
健気な愛妻、それとも…―昔の姿のまま、夫に会った女―
雑なストーリー①・京に、そこそこ貧乏な男がいました。ある時、知り合いが、国司とゆう地方役人に任命され「これからは君の面倒も見られるから一緒に行かないかい?」と誘ってくれます。男には優しくて性格の良い、愛する妻がおりましたが、ここは人生大逆転のチャンスなので、泣く泣く妻を置いて旅立ちます。そしてついでに、金持ち女と再婚して地方に連れて行きました。(一夫多妻制だから)
雑なストーリー②・地方で働きながら、生活も安定してきた男でしたが、思い出すのは、京の優しい妻の事ばかり。金持ち妻の事は、嫌になってきてしまいました。
雑なストーリー③・そして数年後、知り合いの任期が終わったので、男も一緒に京に戻り、その足で急いで、別れた妻の所を訪ねます。すると家は荒れておりましたが、妻は変わらぬ様子で優しく迎え入れてくれたのでした。2人は「今度スーパー銭湯にでも行こうよ」「あらっ、じゃあ、アンミカの旦那さんに会えるかしら?」「それはLiLiCoでしょ」などと世間話や今後の事など夜通し語り合い、仲睦まじく寄り添いながら眠りにつくのでした。
雑なストーリー④・朝になり男が目覚めると、妻が眠っているはずの隣には、ミイラのような死体が横たわっていたのです。男は驚き、飛び上がって家の外に飛び出します。近隣の住民に聞きますと、身寄りもない妻は、夫が旅立った後、病気になり亡くなったとの事でした。弔う者もなく、死体は放置されたままだったのです。
野式部の雑な感想
この妻が、生きていた頃と変わらぬ様子で出てきたのは、何故だったのでしょうか。自分が死んだ事に気づいてなかったのか、夫に会えた懐かしさから、つい生きている振りをしてしまったのか。ここで、野式部のへそ曲がりの血が騒ぎます。やっぱり妻は、自分だけ貧乏から抜け出した上に再婚もした夫を恨んでいて、復讐をしたかったのではないかと。好きだからずっと待ってたよ、元通り仲良く暮らせるよ、と喜ばせて翌朝、絶望に突き落とすのです。しかも死体とイチャついたとは精神的ダメージきついです。とはいえ夫が忘れずに訪ねて来てくれてこそ出来る話です。愛情にせよ、恨みにせよ、待ち続けていたとしたら、悲しい話です。
恐怖のワンポイント・アドバイス
「今昔物語」の各話のラストに、語り手の一言があります。時には現代の価値観では許容出来ないような一言もあるのですが、今回は「こんなこともあるかもだから、ちゃんと調べてから行った方がいいね」でした。
これって、100%男性目線の言い草じゃないですか。これよりも先にもっと気を付けられる事あったはず。「ホントに愛する妻とは別れちゃ駄目だよ」とか「せめて少しくらい仕送りしてあげな」とか。当時は飛脚便すらない時代。距離的に離れてしまえば、どうしようもない事情は分かるのですが、妻が生活に困るのは分かり切っている事なのに、と思ってしまいます。捨てられても死後までも健気に待ち続ける妻よりも、前回の話のように、悪霊になって夫を殺してやろうと探し回る妻の方が、私は好きです。
次回は「今昔とんでも物語⑦」またも、夫と別れた妻のお話をお送りします。
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