今昔とんでも物語⑫「殺人の手引きをさせられた美女」

恐怖のパンチライン

平安時代末期に編纂された説話集、「今昔物語」には、沢山のお話があります。かなり自由な、その中でも、特に心に残る「とんでもない」と思える話をご紹介していきたいと思います。今回は恐怖のクライムサスペンス。うまい話には裏があるのです。

平安恋愛事情に潜む犯罪の影!

雑なストーリー①・イケメンで品もある貴族の好青年が、清水寺詣での時に美しい女性を見かけ、ビビビッときて、供の者に後をつけてもらいます。すると美女の方の供の侍女がそれに気づき「家の姫さん、あんたの主が見初めたなら口きくよ?」と好感触だったそう。青年が喜んで文を交わすと、相手の返信の字は何とも美しく、ますます好きになってしまいます。そしてすぐに、彼女の住む屋敷へ行ける運びとなりました。お忍びなので誰にも告げず、ごく少人数をお供に屋敷に向かいます。

雑なストーリー②・会って過ごしますと、本当に美しく素晴らしい女性なので、青年は将来の約束を交わそうとします。しかし女性の様子が辛そうで何かおかしいのです。懸命にその理由を聞き出そうとしますと、いよいよ女性が話し出したのは、とんでもなく恐ろしい筋書きだったのです。

雑なストーリー③・女性は、ある悪い男に誘拐され監禁状態です。その男は、女性を着飾らせ寺詣でに行かせ、見初めた青年を屋敷に呼びよせ共寝をさせるのです。青年が寝入ると天井裏から鉾を降ろし、それを女性に青年の胸に当てさせ、刺し殺してしまいます。青年の馬や着物、持ち物を盗むのが目的なのです。女性は生きるため命令されて、仕方なく従ってきましたが「今度こそは私が鉾で刺されますから、貴方は逃げてください!」と青年に言いました。

雑なストーリー④・青年は恐ろしい計画に驚きますが「自分だけ助かる訳には行かない。一緒に逃げよう!」と女性に言います。しかし女性は「人を刺した手ごたえがないと、不審に思い、一味が下に降りてきて2人とも殺されてしまうから」と断るのでした。青年は泣く泣く1人部屋を出ますが、不穏な空気を感じ隠れていた、お供の少年と会えたので、何とか2人で屋敷を逃げ出します。ある程度走って振り向くと、屋敷は火に包まれていたのでした。

自分の屋敷に戻った青年はこの出来事を誰にも言わず、お供の少年にも口止めします。そして密やかに、亡くなった女性の供養をするのでした。

野式部の雑な感想

この話は、男性に有利である当時の恋愛事情を、逆手に取った犯罪の物語です。面倒くさい段階を踏まなくとも、お互いの素性をろくに知らなくても、お相手になってくれる夢のような女性。後腐れもありません。しかし秘密裏に事を運ぶとゆう事は、男の身内にとっても何の情報もなく、家族が突然行方不明になったとしても探しようがないのです。こうゆう話、昔は割とあったのではないでしょうか。

この女性は不憫だし、勇気がありますが、気持ちはわかる気がします。好きでもない男の相手をさせられ、殺人の手伝いまでさせられ、自分が生きるためとはいえ、辛すぎます。それにしても、この犯罪を思いついた悪い男は、手口が巧妙(大きな儲けはないかもですが)な上に、死んだのが女の方だと気づくと、速やかに屋敷に火を放ち、証拠隠滅して逃げ去るのですから、並大抵の悪党ではないと思います。捕まってないですし。

恐怖のワンポイント・アドバイス

「今昔物語」の各話のラストに、語り手の一言があります。時には現代の価値観では許容出来ないような一言もあるのですが、今回は「この女性も、お供の少年も偉いね」とあります。さらに「この話を聞いたら、いくら好みの女性に出会っても、知らない所に軽々しく訪ねて行くんじゃないよ」と、大変、真っ当な教訓を発信しております。

次回は「今昔とんでも物語⑬」をお送りします。世にも有名な、道明寺に出た大蛇のお話です。


この記事が少しでも面白い!と思っていただけたら、
応援のクリックをいただけたら嬉しいです!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA