今昔とんでも物語㉞「鬼になった母」

平安時代末期に編纂された説話集、「今昔物語」には、沢山のお話があります。かなり自由な、その中でも、特に心に残る「とんでもない」と思える話をご紹介していきたいと思います。今回は、衝撃の家庭内物語です。

兄弟は見た!恐怖は家にある‼

雑なストーリー①・昔、ある所に、兄弟の猟師がいました。2人は猟の名手で、それぞれ近くの木の上の枝の間に、板を結び付け、下を通る鹿を待ち受けて矢で射って、仕留めていました。ある日、夜遅くなっても、獲物が通りませんでした。すると暗闇の中突然、兄の紐で結んだ髪を上に引っ張る手がありました。兄は驚きながらも、「こりゃ鬼が俺を食べようとして襲ってんな」と思いました。兄は近くの木の上にいる弟に言いました。「なぁもし、木の上にいる俺の髪を上に引っぱり上げようとする奴がいたらどうする?」弟は答えました。「なんそれ。そんなのいたら俺が矢で射抜いてやるよ!」「じゃあ今、そうなんだけど」と兄が言うので、弟は暗がりの中、気配を頼りに弓を引きました。
雑なストーリー②・弟の矢は見事、命中しました。兄が髪を手で探ってみると、射られて切れた手が残っていました。2人はそれを持って家に帰りました。
雑なストーリー③・2人は年老いた母と暮らしていました。母は自分の部屋で休んでいるのですが、兄弟が戻ると、辛そうに呻いている声が聞こえてきます。どうしたんだろうと思いながら、2人が明るい場所で、持ち帰った手を見てみると、なんとそれは母の手に似ていたのです。「おっ母さん、あのさ…」と、兄弟で母の部屋の戸を開けると、母は「おめーら、よくもやってくれたな!」と、飛び掛かってこようとするので、兄弟は慌てて、持ち帰った手を中に投げ入れて戸を閉めました。
雑なストーリー④・しばらくして母は亡くなりました。遺体を確認すると、やはり、片手が切り落とされていました。この母は鬼となり、兄弟を食べようと、木の上から襲ったのでした。人間が長生きするとかならず、鬼になると言われています。

野式部の雑な感想

 なんともはや、恐ろしい話です。いくら長生きしたとて、何をどうやったら「よし、今、狩りに行ってる息子たち、襲って食べちゃおう!」となるのか。鬼になったら、人が食べたいのは百歩譲ったとして、大変な思いをして産んで、苦労して育てた子供を、食べようと思うものなのか。「鬼だから、そんなの関係ねぇ」と言われれば、それまでですが、ここは「よりよって」ではなく「だからこそ」があるのでないかと思ってしまいます。子供への深い愛と執着が、長い年月の中で歪み、禁断の領域に達してしまったのではないかと、考えてしまいます。

 それにしても「長生きすると鬼になる」って乱暴すぎる理屈に思えますが、猫や狐も長生きすると、化けたり悪さをする、と信じられていました。誰もが思う様に生きられず、不本意に命を落とす人が多かったこの時代、長生きできたのは本当に貴重で素晴らしい事だと思うのですが。

次回は「今昔とんでも物語」㉟を、お送りします。今度は出向いた先で鬼に遭遇するお話です。

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