今昔とんでも物語㉝「橋に出る鬼」
平安時代末期に編纂された説話集、「今昔物語」には、沢山のお話があります。かなり自由な、その中でも、特に心に残る「とんでもない」と思える話をご紹介していきたいと思います。今回は、とっても怖いお話です。
鬼からの『I’II BE BACK!』
雑なストーリー①・昔、ある地方の国司の館での話です。そこで働いている荒くれ者の男達が、碁を打ったり、お酒飲んだり、自慢話したりしておりました。ふと、話題がその地域にある「安義橋」に及びました。その橋には鬼が出る、と言われていて、誰も通ろうとしない、ホラースポットだったのです。すると一人の男がいいました。「そりゃ怖いけどさーこの館で一番の名馬に乗ってたら、鬼出ても逃げられるんだけどなー俺」と。すると周りの男達が、「いいじゃん!誰か行ってホントに鬼が出るか確かめてくれたら、もう回り道しなくて済むよ!お前の度胸も見たいし!」と、けしかけます。ワイワイがうるさ過ぎて、ついに国司が出てきて「何をそんなに盛り上がってるの?」と聞いてきたので皆で事情を話します。
男が「ほんのジョークっすよ」みたいに前言撤回しようとするので、周りの男達が「おめー嘘ついたのか、ホントは鬼が怖いって言えよ!」と責めます。すると男は「別に全然行けますけどー」とムキになります。他の者達が「怖くないなら、日が落ちる前に早く行きなよ!」と囃し立てるので、男は、国司の貸してくれた名馬を走らせ、噂の安義橋に向かいます。
雑なストーリー②・うら寂しく不気味に感じる雰囲気の中、男が馬で橋に近づくと、何と橋の真ん中辺りに女が一人立っていたのです。女は不安そうで、何か言いたげに男を見てきたので、男は「馬の後ろに乗せてあげようかな?」なんてちろっと思いつつ「いや、これは鬼に違いない」と思い直し、通り過ぎようとします。すると女は「ちょっと!私困ってんのよ。乗せてってよ!」と言ってきたのですが、その声は大声コンテスト優勝の音量で、男は「やっぱ鬼じゃん‼」と更に恐怖を感じ、スピードを上げて逃げます。
雑なストーリー③・女は凄いスピードで走ってきて、馬のしっぽを掴もうとしましたが、事前に油を塗っておいたので滑って掴めません。男が馬を走らせながら振り返ると、女が本来の姿に戻った、その恐ろしい事、100人に聞いたイメージの鬼の姿、そのままなのでした。やがて馬が人里に着こうとする頃、鬼は「お前に必ずまた会うからな!」と捨て台詞を吐いて、消えて行きました。
雑なストーリー④・命からがら、男は国司の館に戻ります。国司も仲間達も心配して待ってました。落ち着いてから、あった事を皆に話しました。国司は「もー危ないなー無駄に死ぬとこだったよ」と言いつつ、貸した名馬を男にくれました。
男は家族や親せきに、武勇伝を得意げに語りましたが、それから、家におかしなことが起こるので、陰陽師を呼びました。すると「これは鬼の祟りだから、指定した日は物忌みして絶対誰も家に入れちゃ駄目!」と言われます。
その日、言われた通りにしていたのですが、よりにもよって、仕事で地方に行っていた弟が訪ねて来たのです。男が「悪いんだけど、今日は超絶都合悪いから、どっかに泊まって明日また来てよ」と門越しに話すと、弟は「何言ってんだよ、兄ちゃん!おっ母さんが亡くなってしまって、その話もしたいんだよ!」と食い下がります。気掛かりだった老母の話をされて、男は弟を家の中に入れてしまうのでした。
雑なストーリー⑤・男と弟は向き合い、あれこれと泣きながら語り合っていました。それを男の妻も、部屋の奥の御簾の向こうから見ていましたが、何と突然、兄弟が取っ組み合いを始めたのです。驚く妻に男は「俺の太刀、渡せ!早くっ!」と怒鳴ります。妻が「んな無茶な!何か悪い霊でも憑いたわけ?」とビビって太刀を渡さないでいると、男は弟に首を切り落とされて死んでしまいます。「やったね!」と振り返った弟の顔は、男が見たであろう、鬼の顔だったのです。鬼は素早く逃げて行きました。
人々は、つまらない事で男が命を落としたものだと、非難しました。
野式部の雑な感想
この話、何が怖いって、鬼に出くわして殺されてしまったのなら、まだわかりますが、家まで追いかけてきて、身内に化けて殺すって執念が怖いです。「鬼って、狐や狸みたいに化けられたんだね」と妙な感心があります。怖い場所に面白半分に行って呪われる、みたいな、教訓的な側面もあるのでしょうか。しかし気になる一文が原文の最後の方にあるのです。夫に「刀寄こせ!」と言われて躊躇した妻に対して「女が賢いのは悪い事です」って。賢いのかもわからないし、すぐに投げた方が夫が助かって賢いんじゃ、とか思いますし、賢いと悪いって、いかにも女が賢くないのが当たり前みたいな価値観です。「それほど男は揃いも揃って賢いのかよ?」と苦言を呈したい心境になります。
次回は「今昔とんでも物語」㉞を、お送りします。今度も鬼と兄弟の話です。
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