今昔とんでも物語㉜「鬼からの大脱走」

平安時代末期に編纂された説話集、「今昔物語」には、沢山のお話があります。かなり自由な、その中でも、特に心に残る「とんでもない」と思える話をご紹介していきたいと思います。今回は、色々考えさせられるお話です。

あな、ひとくち!恐怖のパンチライン!

雑なストーリー①・昔、ある所に、貴人の屋敷に仕えている若い女性がいました。ある時、これといった夫もいないのに、妊娠してしまいます。家族親戚縁者など、頼れる人もない身の上で、雇用主や周囲にも秘密にしたいので、「自分で何とかするっきゃない!」と腹をくくり、ひそかに準備を始めます。
雑なストーリー②・着物でお腹を隠しながら今まで通り働き、いよいよ、となった時、自分が雇っている女の子を1人連れ、まだ日が昇る前に出発します。「山奥に入って行って木の下ででも子供を産もう。お産で死んでも誰にも知られないで済むし、無事に済んだら、何もなかったかのように、しれっと屋敷に戻ろう」そう覚悟して。子供は捨てる前提です。
雑なストーリー③・よさげな場所をさがしつつ、山道を歩き続けて行くと、廃屋のような場所があったので「ここで産もう」と入って行くと、なんと奥から人の気配がします。女が「やっべぇ、人住んでたー」と困っていると、白髪の年配の女性が出てきて「あらまーどうしたの?」と優し気に言ったので、女は涙ながらに、事情を説明しました。

雑なストーリー④・すると年配の女性は「まーじゃあ、ここで産みなさい。私は一人暮らしの年寄りだから、お産の穢れとか全然気にしないわ。子供産んで、ゆっくり休んでから帰ればいいじゃない」と、うれしい言葉を掛けてくれたのです。地獄に仏とはこの事です。女は安心して、無事、子供を産みました。

雑なストーリー⑤・子供は可愛く、捨てる気持ちも吹っ飛びました。年配の女性にお世話してもらって休み、数日たったある日の事です。赤ちゃんを横に、女が昼寝をしていますと、ふと赤ちゃんの顔を覗き込んでいる年配の女性のつぶやきが聞こえてきました。「なんちゅう旨そうなお子様や、一口でパクッといけまっせ」女は度肝を抜かれたものの、寝たふりを続けました。そして内心「やっば!この人、鬼じゃんか。マジ逃げよ」と決心します。

雑なストーリー⑥・そして今度は、年配の女性が昼寝をしている隙に、お付きの女の子に赤ちゃんを抱かせて、3人で逃げ出します。鬼が追ってくる恐怖を感じながらも疾走し、何とか山を下りて、無事に勤め先に戻ったのでした。

女は、お金を人に渡して、子供を育ててもらう事にしました。この恐怖体験は、この女が年を取ってから、人に語ったとゆう事です。

野式部の雑な感想

 この主人公の胸の内を考えると辛くなります。初めて(たぶん)のお産を誰に伝えるでもなく、たった1人で対処したのです。どれほど心細かった事でしょう。賢い女性だったからこそ成し遂げられたのでしょう。

困った時に助けてくれた人が実は人食い鬼だったとは、いかにも怖いお話です。ただ、山奥に1人住んでいた女性には、なにか特別な赤子に対する思い入れがあり、執着の余り食べるようになったのではないか、と勝手に想像してしまいます。「安達が原の鬼婆」のように、人が鬼に変わる時には、のっぴきならない、悲しすぎる事情があるのではないかと。まぁ、今回の話では、主人公が「私、食われる」と思ったから、別に赤子限定とゆう訳では無いし、何よりも、特に相手が鬼だった物的証拠はないのです。産後のお疲れの女性が、寝ぼけたとか、聞き間違えたとかの可能性はゼロではないかと。目覚めた年配の女性は、もぬけの殻に気付いて「あらまーお礼も言わずにトンズラして、最近の若い子はなってないねぇ」と思ったかもしれません。

次回は「今昔とんでも物語」㉝を、お送りします。今度は、執拗に追いかけてくる鬼のお話です。

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